たまりにたまった診断を。

今の仕事の大きな部分を、“診断”が占めているのをご存知だろうか。

オレがまだ転勤してくる前の去年は年間360点程度の診断が持ち込まれていたみたい。1日1点のペースだ。とはいえ、コンスタントに持ち込まれるわけではなく、時期は限定される。作物の定植直前、直後、収穫時期…。この1週間ぐらいも、なんとなく診断がたくさん持ち込まれた気がした。

1.サヤインゲンが萎れて枯れる。地際に綿のようなカビが生える…。

2.カーネーションが萎れて葉が下から枯れる。

3.アネモネの球根を催芽したのに芽がほとんど出ない。

4.ポインセチアの葉に濃緑色の斑点ができる。それとは別に、輪紋状に葉枯れする。

5.温州みかんの葉にぼつぼつができ、だんだん大きくなる。

6.センリョウが萎れる。

ほかにも何点か持ち込まれたけど、自分が対応したのはこれくらい(正確にはサヤインゲンの持込は9月の最終週だった)。で、これらの持込に対して答えを出すのだが…一年目の駆け出しにはとても難しいのだった。

1.診断:インゲン綿腐病。根拠:検鏡によるPythium属菌の確認と、分離。つまり、カビが生えている部分と、変色している茎を顕微鏡で見て、Pythiumという菌が見えたため。それと、確認のために、まだ変色が進んでいないみためきれいな茎を切り取って菌を培地上で分離してみたら、たしかにPythiumがたくさん取れたため。

2.診断:カーネーション萎凋病。根拠:症状が図鑑等の資料と一致している、また、Fusarium oxysporumの分離。つまり、図鑑に記載されていることと持ち込まれたサンプルの状態がほぼ同じだったこと。それと、菌の分離を試みたところ、F.oxysporumと思われる菌(胞子ができるときに、メインの菌糸から伸びる柄の部分が短い)がたくさん取れたため。これにはおまけがあって、よしよしoxysporumだなと思って顕微鏡をのぞいていたら、連鎖する胞子が見つかって驚いた。資料を見てみると、oxysporumは連鎖した胞子は作らない。F.moniliformeのような気がする(イネばか苗病の原因菌)。雑菌として飛び込んできたのだろうか。

3.診断:アネモネ腐敗病。根拠:とにかく細菌の繁殖がすごいため。根拠としてはとても弱いんだけど、一応状況証拠として。細菌の分離もしてみたんだけど、白いコロニーのやつがたくさん取れた。いちおう、腐敗病の原因はPseudomonasということで、コロニーは白い見たいなんだけど…自信なし。簡易同定を時間があるときにやるか…。

4.診断:まだわからない。根拠:Alternariaが少しとれたが、こいつは雑菌としてよく見るから。輪紋状の葉枯れ…にAlternariaが関与するというのはあるみたいだけど、分離率がそんなに高いわけでもない。胞子を作らせて、接種試験をしてみたいところ。

5.診断:かんきつにせ黄斑病。根拠:病徴の一致。これはほとんど根拠といえるものが無かった。図鑑の記述とほぼ一致した、というだけ。分離もまだしていないが…やらないといけないだろうなぁ。

6.診断:センリョウ紫紋羽病(新病害)。根拠:地際部に菌糸束があり、感染座も確認された。センリョウという植物には、紫紋羽病が出るというのは報告されていない。したがって、新病害。学会発表…というか、報告することが義務のようなものらしい。ところが難問があって、紫紋羽病菌であるHelicobasidium mompaはとても生育が遅い菌らしい。ので、分離しても、雑菌に負けてしまうことがとても多いという。鮮度の良い菌糸を見つけ出し、よーく洗って、抗生物質が入った培地で培養して…と結構骨が折れそう。

文章でかくだけだと何がなんだかわからない。けど、こういう仕事が多い、直接的に求められている仕事、というわけです。がんばらないとなーと毎回思う。